「悪事千里を走る(あくじせんりをはしる)」ということわざを聞いたことがありますか?
日常会話ではあまり頻繁には使われないかもしれませんが、ニュースや物語の中で、人間の行動や評判の本質を突く言葉として登場することがあります。
この言葉には、どのような意味が込められているのでしょうか。
この記事では、「悪事千里を走る」の意味や正しい使い方、その言葉が生まれた背景(由来)、似た意味を持つ言葉(類語)、反対の意味を持つ言葉(対義語)について、詳しく解説していきます。

【北澤篤史先生】
ことわざ・漢字熟語の専門家、ことわざ学会理事。著書に『〈試験に出る〉マンガでわかる すごいことわざ図鑑』『〈試験に出る〉マンガでわかる おもしろい四字熟語図鑑』『マンガでわかる 漢字熟語の使い分け図鑑』(いずれも講談社)がある。
「悪事千里を走る」のポイントまとめ
| 言葉/読み方 | 意味・解説 |
|---|---|
| 悪事千里を走る (あくじ せんり を はしる) |
悪い行いや噂(うわさ)は、たちまち遠くまで広まるという意味。 良い行いは広まりにくいが、悪い評判は瞬時に広範囲に知れ渡ることを表現している。 |
| 由来 (ゆらい) |
中国の古典『北史』『宋史』などに登場する言葉が起源。「好事門を出でず、悪事千里を行く」が元になったとされる。 |
| 例文1 | 「あの政治家の汚職事件は、まさに悪事千里を走るように、報道された翌日には全国に知れ渡っていた。」 |
| 例文2 | 「社内で起きた小さなトラブルだったはずなのに、悪事千里を走るとはこのことか、あっという間に取引先にまで噂が広まってしまった。」 |
| 例文3 | 「SNSでの誹謗中傷は、悪事千里を走るどころか、一瞬で世界中に拡散してしまう恐ろしさがある。」 |
| 類語1 人の口に戸は立てられぬ (ひとのくちに と は たてられぬ) |
噂や秘密は簡単に広まり、人の口を封じることはできないという意味。 |
| 類語2 隠れたるより見るるはなし (かくれたる より あらわるる は なし) |
隠そうとすればするほど、かえって目立ってしまい、ばれてしまうという意味。 |
| 対義語 好事門を出でず (こうじ もん を いでず) |
良い行いや評判は、なかなか世間には広まらないという意味。「悪事千里を走る」と対になることわざ。 |
「悪事千里を走る」の基本的な意味
「悪事千里を走る」とは、悪い行いや悪い評判は、あっという間に遠くまで知れ渡ってしまうという意味のことわざです。
「悪事」は文字通り、道徳に反する行いや、他人によくない影響を与える行為、あるいは悪い噂などを指します。
「千里」は、非常に長い距離を表す言葉ですが、ここでは物理的な距離だけでなく、広範囲に、そして多くの人々に伝わることの比喩として使われています。
「走る」は、その伝わるスピードが非常に速いことを示しています。
つまり、良い行いはなかなか人に知られなくても、悪い行いやスキャンダル、不祥事などは、まるで足が生えているかのように、瞬く間に世間の知るところとなる、という人間の社会における情報の伝わり方の性質を指摘した言葉なのです。
「悪事千里を走る」の由来
悪事千里を走るの由来は、古代中国の文献にあるとされています。
例えば、北宋時代の歴史書『宋史』や、それ以前の南北朝時代の歴史書『北史・魏書』の中に、「好事門を出でず、悪事千里を行く(こうじもんをいでず、あくじせんりをゆく)」という記述が見られます。
「好事門を出でず」は、「良い行いは家の門からさえなかなか外に出ない(=広まらない)」という意味です。
これと対比される形で、「悪事千里を行く(走る)」が使われ、悪いことほど遠くまで伝わりやすいという対比が強調されています。
この中国の古典にある言葉が日本に伝わり、「悪事千里を走る」ということわざとして定着したと考えられています。
昔も今も、人の口や噂によって情報が広まる速度、特にネガティブな情報が広まる速度の速さは変わらない、という普遍的な真理を表していると言えるでしょう。
「悪事千里を走る」の使い方と例文
では、実際にどのような状況で「悪事千里を走る」を使うのでしょうか。
具体的な例文を見てみましょう。
例文1
「あの政治家の汚職事件は、まさに悪事千里を走るように、報道された翌日には全国に知れ渡っていた。」
解説:政治家の不祥事という「悪事」が、非常に速いスピードで広範囲に知られた状況を表しています。
例文2
「社内で起きた小さなトラブルだったはずなのに、悪事千里を走るとはこのことか、あっという間に取引先にまで噂が広まってしまった。」
解説:最初は内々の問題だったはずの悪い情報が、予想以上に速く外部にまで伝わってしまった驚きや困惑を示しています。
例文3
「SNSでの誹謗中傷は、悪事千里を走どころか、一瞬で世界中に拡散してしまう恐ろしさがある。」
解説:現代のインターネット社会においては、情報の拡散スピードが「千里を走る」どころではない、さらに速く、広範囲であることを表現しています。
ことわざの意味合いを、現代の状況に合わせて強調する使い方です。
このように、「悪事千里を走る」は、悪い情報や評判が急速に広まる状況を指して使われます。
多くの場合、その状況に対する警告や、ある種の諦め、あるいは現象の説明として用いられます。
「悪事千里を走る」の類語
「悪事千里を走る」と似たような意味を持つ言葉も存在します。
これらを知ることで、表現の幅が広がります。
人の口に戸は立てられぬ(ひとのくちにと は たてられぬ)
噂話や秘密は、人が話すのを止めることができないため、すぐに広まってしまうという意味です。
悪事に限りませんが、悪い噂が広まるのを止められない状況によく使われます。
隠れたるより見(あらわ)るるはなし
隠そうとすればするほど、かえって目立ってしまい、知られてしまうという意味です。
悪事を隠蔽しようとしても、結局は露見してしまうことを示唆します。
これらの言葉も、「悪事千里を走る」と同様に、情報、特にネガティブな情報が広まりやすい性質を指摘しています。
「悪事千里を走る」の対義語
「悪事千里を走る」と反対の意味を持つことわざは、その由来でも触れた言葉が最も直接的です。
好事門を出でず(こうじもんをいでず)
良い行いや良い評判は、なかなか世間に知られない、広まらないという意味です。
「悪事千里を走る」とセットで語られることも多く、善行が報われにくい、あるいは認知されにくい社会の側面を表しています。
この対比によって、「悪事千里を走る」の意味、すなわち悪いことの伝播力の強さがより際立ちます。
まとめ:現代社会と「悪事千里を走る」
「悪事千里を走る」ということわざは、悪い行いや評判がいかに速く、そして広く伝わるかを教えてくれます。
その由来は古く、中国の古典にまで遡りますが、情報化が進んだ現代社会において、その意味するところはさらに重みを増しています。
インターネットやSNSの普及により、情報は文字通り「千里」どころか、瞬時に世界中を駆け巡るようになりました。
特に、ネガティブな情報やスキャンダルは拡散されやすく、一度広まってしまうと、その影響をコントロールすることは非常に困難です。
このことわざは、私たち自身の行動や言動に注意を払うことの重要性を、時代を超えて教えてくれると言えるでしょう。
悪い行いはすぐに知れ渡ってしまうということを心に留め、誠実な行動を心がけることが大切です。











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